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2016/3/18更新

居場所づくり

まず背景を想像してみる
日本の周縁で生き続けるために

多文化市民ネットワーク根っこ・石田みどりさんインタビュー

日本社会で暮らす外国人市民が200万人を突破して10年以上が経った。外国にルーツを持つ人々の背景と現状が多様化する一方で、さまざまな領域で日本社会の周縁に置かれている。居場所づくり連載第5回として、石田みどりさんに@多文化市民ネットワーク根っこの設立経緯、A「川崎中1殺害事件(※1)」について、B居場所の「成果」とこれからの取り組みについて、インタビューした。(編集部・ラボルテ)

──設立の経緯と主な取り組みについて教えて下さい。

石田…2010年5月に、子育て世代の人を中心に立ち上げました。在日コリアンのコミュニティやつながりをベースとして、日本の人やタイから来たお母さんなど関わっていた人が中心です。目的は、子どもや母親たちの出会いと交流の場を作ることです。

最近、力を入れているのが多文化家族交流会です。子育て中のメンバーが「自分のママ友にも外国の人がいるので、交流会をやりたい」と提案してくれました。2カ月に一度、公民館の調理室などを借りて、料理を一緒に作って食べたりしています。市内で場所を移したり、料理を持ち寄りにしたり、書道体験講座をしてみたり。その時々で織り交ぜて試行錯誤しています。

また、生活相談にも応じています。例えば、「家の水道が止まっていて…」「元夫が養育費を払ってくれない」「家族がひきこもりの状態になっている」など、子どもやお母さんから相談を受けることがあります。行政機関へのつなぎや家庭裁判所への同行などを行ってきました。

──家族交流会の雰囲気は?

石田…高槻市内では、在日コリアンの集住地域が歴史的にあり、府営住宅には中国の人も多いのですが、いろんな地域に外国ルーツの人がぽつぽつ住んでいます。しかしつながりがない外国ルーツの人が多く、子どもが学校で他の外国ルーツの子どもと出会う機会も少ないのです。「出会うだけ」でも意味がありますし、「あそこに行けば外国ルーツの人と出会える」と知られる存在になりたいです。

印象に残っていることは、東南アジア出身で、工場で働くお父さんが、「来月から牛を育てる仕事に転職します」と交流会の中で話されたことです。将来、母国に帰ることを考えて、牛を育てる技術を身につけたいとのことでした。職業の選択においても、日本だけで生活している人とは異なる価値観があるのだと、改めて気付かされました。

──居場所にはさまざまなテーマがありますが、日本ルーツの人を対象とした「居場所づくり」との違いは。

石田…参加している人の多様性や違いを大切にすることを重視しているところが、特徴的だと思います。「外国にルーツがある」といっても、ルーツの国も違えば、日本に来た時期も違うし、日本生まれや、2世、3世の人もいます。日本で「外国人」として生きていて経験する共通のこともありますが、集まってみれば、お互いに違いを知ることになるのです。そこに生まれる多様性というか、「みんなが違うのが当然」という雰囲気は他ではあまりないと思いますね。

また、他の「居場所」につながりにくい、経済的に不安定な状況の親子や若者の参加があることも特徴です。中卒で働いている若者も、休みの日が合えばイベントに参加してくれます。小難しい話をするよりも、みんなでご飯を作って食べたり、遊んだりして交流する中で、自然といろんな話が出てくるのがいいと思っています。

社会構造がつくる被害と加害

──「川崎中1殺害事件」(※1)について、どのように考えていますか。

石田…起きるべくして起こったと思います。高槻で出会っている子どもたちの多くは、社会的なハンデを負っています。日本社会は、家族の経済状況や文化資本によって子どもの生育が左右される環境にあります。親の不安定な就労のため家庭が経済的に苦しく、社会からの無理解や偏見のある中で育てば、人間と社会に対する信頼も生まれてきません。「しんどくて、とても息苦しい」ことがあっても、誰かに相談しようとは思わないだろうし、頼れる大人もいないとなれば、受けた暴力と痛みはどこに向かうのでしょうか。

親も子どもも精一杯頑張っていて、お互いに気持ちを分かってほしいと思ってい るのですが、すれ違ってしまうことがあります。例えば、母親は、16歳で母国を出て出稼ぎに行った経験から、10代後半の子どもに対して「あなたはもう大人なんだから親に頼らず自分でがんばりなさい」と伝えがちです。一方、子どもは「親の都合」で日本に来て、言葉も習慣も違う環境に必死で適応してきました。なんとか高校進学はしたけれど勉強はわからない、アルバイトもきつい。自分の力だけではどうしようもない壁にぶつかった時、親にも頼れず一人で抱え込まざるをえなくなります。

私たちは、不登校や不就学の状況にある多くの子どもたちに出会えていません。私たちがボランティアベースであることから、活動基盤が脆弱で、限界を抱えています。一方でDVを受けて居なくなる母子は確実にいるでしょうし、いろんな要因が重なって暴力に向かったり、精神的に病んでしまったり、犯罪に至ってしまう子どもがいることは、少し想像すれば、わかることです。子どもが被害や加害に至る要因に、社会として向き合わなければいけません。

少しでも気持ちを話せる友達や仲間がいたら、「被害・加害に至らなかったのでは」と思うのです。子どもや親たちは、日本の学校や職場などのマジョリティ社会と、外国ルーツがゆえの家族・親族・血縁でのマイノリティ社会に生きています。抜本的な解決策とは思わないけれど、社会的暴力や差別のある中をサバイブするツールであり、家や学校・職場でもない、第3の場所が「根っこ」のようなところだと考えています。

立ち飲み屋的な場の必要性

──居場所の成果は数字化しにくい。「成果」について、どのように考えていますか。

石田…まずは人と人がつながることだと思います。成果というのは、長期的に捉えて見えてくるのではないでしょうか。今、「根っこ」に関わっている子どもたちが、大人になって地域を拠点に新しいつながりをつくるかもしれません。分断し孤立させられる現代社会ですから、とても大事な成果だと思います。

日頃は「俺は別に何もないし」という子も、ご飯を食べてホッとしたり、表面的には話を聞いていないように見えても、何かを考えているでしょうし。若い時は学校やバイトなどいろんなところで気を張っているじゃないですか。家や学校、職場での役割を脱いで、ただの自分でいられる場所、話を聞いてくれる人がいる場所という意味で、子どもにとっての立ち飲み屋的な場所だと思います。

「親がなぜ日本にきたのか、どんな生活をしてきたのか」「母国と日本の関係は」といったことを話せたらいいと思うのですが、そこまでできてはいないです。まずは「ここは素の自分でもいいや」と思えるような場所であってほしいです。それだけではなく、自分の感じる生きづらさを明確化したり、自分だけが悩んでいるのではなく、みんなが悩んでいて日本社会の構造の問題だということを、ちょっとでも話せたら、と思います。言葉や文化、経験の違いから、わかりあえないことはたくさんありますが、活動の中で、「わからないことがあると知ること」、そして「わからないけど、わかろうとすること」「想像すること」の大切さを日々、感じています。

つながりを起点に

──今後の取り組みは。

石田…一つは、行政と協働して「外国人市民のための、外国人市民による、そこに行くと場と人がある状態にしたい」と考えています。社会的にも行政機関の中でも「高槻で、外国人のための団体はここだ」みたいな。高槻市内には国際交流協会(※2)のような組織がない状態で、行政機関の窓口では母語での相談もできません。行政サービスにアクセスできるように、まずは情報提供が必要です。文化の違いや在留資格、家族問題、生活困窮、海外に居る家族の悩みなど、複合的な課題に取り組める状態にしていきたいです。

もう一つは、外国人保護者会や外国人市民会議を作ることです。学校や行政機関に意見を伝えるようにできたら、と考えています。「活動のための活動」にはせず、急ぎ足にならず、人間関係を大事にしながら、少しずつベースを作っていきます。

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